松本永野法律事務所
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1. 交渉による債権回収とは

交渉による債権回収とは、話し合いによって、債務者の支払いを確保することをいいます。
交渉なので、訴訟などの法的手段による強制力はありませんが、その分コストも安く、債務者の性格や現在の状況次第で、債務者との関係を維持したまま、債権回収を目指すこともできます。

また、契約通りの支払いを確保できなくても、
①分割払いにして、少しずつでも確実に支払ってもらう方法
②債務者に新たな担保を立ててもらう方法
③債務者が有している債権を、代物弁済として譲り受ける方法
など、交渉次第で様々な方法によって、債権の回収を図ることができます。

2. 具体的な方法について

(1) 権利関係・資料の確認とは

交渉による債権回収の方向性は、当事者間の権利関係によって多種多様です。
まずは、契約書類等で権利関係を確認し、債務者と現在どのような取引状態なのかを整理することが大切です。
抵当権を有していたり、保証人がいたりする場合には、債務者と交渉しなくても、そこから回収を図ることができます。債務者に対して、買掛金などの金銭債務があれば、相殺による実質的な債権回収の可能性もあります。

また、契約書が存在しない場合や、消滅時効が近づいている場合(通常の契約に基づく金銭債権は、原則10年間です)は、債務者との間で、債務確認書を取り交わしておき、現在の権利関係を証拠として残しておくことが重要です。

(2) 交渉の方向性とは

次に、どのような方法で債権回収が可能かを考えます。これには、権利関係によってさまざまなやり方があります。
典型的なケースとして、以下のような方向性があります。

(ア)「現在、資金繰りが苦しいが、将来には支払いの可能性がある」
債務者から支払いが滞る説明として、「現時点ではお金が払えないが、来月になれば…」と言われるパターンが、最も多いものと考えられます。
この場合は、期限の延長や分割払い等により、債務者が支払い可能な方法に変更するという交渉が考えられます。
その代わり、公正証書を作成し、執行認諾文言(支払いを怠ったら、強制執行されても異議を述べないという言葉)を入れることにより、同公正証書を債務名義として、裁判によらずに強制執行をできるようにする等、確実に回収ができる工夫が必要です。

(イ)「新たな担保を確保できそう」
不動産や保証人など、新たな担保の確保が期待できる場合には、上記の分割や弁済期の延長の条件として、担保を追加してもらうように交渉しましょう。

(ウ)「債務者が第三者に対する債権を持っている」
債務者が、第三者に対して債権を持っている場合、これを本来の支払いの代わりに譲り受けて、代物弁済として回収をすることが考えられます。
この場合、債務者から第三債務者(譲り受ける債権の債務者)に対して、確定日付のある証書(配達証明付内容証明郵便等)により、譲渡の通知をしてもらう必要があります。

(エ)「債務者に対する債務も存在する」
債務者に対して、こちらも同種の金銭債務を有している場合、これらを相殺して実質的に債権を回収する方法もあります。

(オ)「納品した商品がある」
自社から納品した商品がある場合、この商品を引き上げるという方法もあります。
ただし、一旦契約に基づいて債務者に引き渡したものである以上、勝手に持ち出してくることはできません。

債務者との間で契約を解除して、債務者の同意の下で引き上げる必要があります。
また、商品が売られてしまいそうな場合は、占有移転禁止の仮処分を申し立てて、第三者に転売されないようにして、回収を図る方法があります。

(3) 交渉時の注意点とは

(ア)いくら債権があるからといって、相手のもの(債務者の所有物はもちろん、納品した自社の商品であっても)を勝手に運び出してきたら、窃盗罪として処罰されます。

(イ)また、債権の回収は債権者にとっても死活問題になりかねませんので、債務の履行を強く求めることは、ある程度仕方ありません。
しかし、「支払わなければ、お前の家族がどうなっても知らないぞ」などと脅したり、深夜に自宅を訪ねて大声で取り立てたりする等、度を超えると脅迫罪や恐喝罪などに問われる可能性があります。

3. まとめ

交渉による債権回収は、「債務者と話し合いをして、支払いをしてもらう」という、一見簡単な方法に思えます。
しかし、債務者の状況を見極めて、多くの選択肢の中から適切な方向性を選択して交渉し、時には保全命令を申し立てて、訴訟に踏み切るという判断も必要です。

また、なかには支払いが可能なのに、支払いをしないという人もいます。
そのような人に対しては、内容証明郵便や弁護士の名前による支払いの催告などを利用して、心理的圧力をかけるだけで、支払いがスムーズになされるケースもあります。