松本永野法律事務所
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1. 建物明渡しとは

ここでは、主に居住用の借家契約を例に、建物明渡しについてご紹介します。
賃貸借契約は、賃貸人が賃貸目的物を賃借人に一定期間使用収益させ、その対価として賃借人から賃料を支払ってもらう契約なので、いずれは賃貸目的物の返還が予定されています。

しかし、賃貸目的物が建物である場合、借地借家法の規制や判例により、その返還について特別なルールが存在します。
そしてそのルールは、建物賃貸借が賃借人の居住や商業活動等、賃借人にとって生活の基盤となる場合が多いため、賃借人保護、すなわち「賃借人が借家を簡単に追い出されないようにする」という方向での規制がかけられていることが多いのです。
さらに、裁判においても、借家の明渡しに関して、賃借人保護の方向での解釈運用がなされているものが散見されます。

2. 明渡しに関する規制について

(1) 明け渡しを求めることができる理由とは

賃貸人が賃借人に対して、借家の明け渡しを求めることができる理由は、一般的に、①賃貸借契約の期間満了、②賃貸借契約の解除という2つのパターンに分けられます。
①は、期間の定めがある賃貸借契約において、契約締結時から想定されていた期限が到来したことを理由とするものです。②は、契約期間の途中で、契約が終了したことを理由とするものです。

(2) 契約期間の満了とは

(ア)賃貸借契約の期間満了を理由に、借家の明渡しを求める場合、期間満了の1年前から6カ月前の間に、賃借人に対し、借地借家法26条1項に定める更新をしない旨の通知をする必要があります。この通知を行わない場合、賃貸借契約を更新したものとみなされます。

(イ)また、上記の通知を行うに際し、契約更新をしないことについての正当事由が備わっている必要があります。(借地借家法28条)

この正当事由は、建物の賃貸人及び賃借人が、建物の使用を必要とする事情の他、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況、並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、又は建物の明渡しと引換えに、建物の賃借人に対して、財産上の給付をする旨の申出をした場合の申出の内容(いわゆる立退料)を考慮して判断されます。
建物を使用する必要性が主たる理由となり、その他の契約の経緯や建物の現況、立退料の額等は補充的な理由となると解釈されています。

そのため、賃借人が当初の契約期間が満了してもそのまま住み続けたいと言って居座り続ける場合、賃貸人側で賃貸目的物を使用する必要がなければ、契約の更新拒絶は難しいとされています。
実務においては、上記のような場合には、いくらかの立退料を支払って、賃借人に建物を明け渡してもらうという交渉が行われることも多くみられます。

(ウ)さらに、上記の更新しない旨の通知をした場合でも、期間満了後に賃借人が借家の使用を継続している場合には、遅滞なく異議を述べなければ、契約更新をしたものとみなされます。(借地借家法26条2項)

(3) 契約解除(解約)とは

(ア)契約解除は、上記の期間満了による契約終了と異なり、契約期間中に賃貸借契約を終了させることで、当事者の合意による合意解除(解約)と、賃借人の債務不履行を理由とする解除に分けられます。

(イ)合意解除(解約)については、建物明渡しが問題となることはあまり多くありませんが、賃借人(契約名義人)の同居人が居座り続けるケースや、明渡しの際の原状回復の範囲について、紛争となるケースも見られます。
なお、賃貸人側からの解約申入れについては、上記の期間満了と同様に正当事由が必要です。(借地借家法26条1項)

(ウ)債務不履行解除の内容は、賃料の不払い、無断転貸、無断改築、ペットの使用禁止等の特約違反等々、事案によって多岐にわたります。
解除に当たっては、原則として相当の期間を定めて債務の履行の催告をしても、履行がされないときに、解除の通知を行うという手順が必要です。(民法541条)
しかし、無催告解除特約がある場合には、催告は不要です。

また、判例上、債務不履行解除においては、賃借人に債務不履行があったとしても、「当事者間の信頼関係が破壊された場合」でなければ解除ができないとされています。(最小三判昭和39年7月28日等)

3. まとめ

上記のように、賃借人に対して、貸した建物の明渡しを求めることについては、法律および判例において様々な制限が存在します。
考慮すべきポイントも、個々の契約や建物の状況、他の賃借人との関係によって多岐にわたります。

また、法律上の問題でなくとも、直接賃借人に対し、「出て行ってほしい」と告げることも、相当に気を遣うことと思います。
そのような交渉の進め方も含めて、一度専門家に相談して、助言を受けることをおすすめします。