松本永野法律事務所
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1.保護の対象となる権利とは

当然ですが、インターネット上の情報について、自分や会社に都合の悪いものであったとしても、その全てを削除できたり、損害賠償の対象となるわけではありません。
すなわち、インターネット上に記載されている情報が個人や会社の名誉権や個人のプライバシー権など、何らかの権利を侵害するものでなければなりません。
ここでいう権利には様々なものがありますが、その代表的なものを紹介します。

2. 保護の対象となる権利の内容について

(1) 名誉権とは

(ア)名誉という概念
一般的に、内部的名誉、社会的(外部的)名誉、名誉感情の3つに分類されます。
・内部的名誉…客観的にその人の内部に備わっている人格的価値そのもので、他者から侵害される性質のものではありません。
・社会的名誉…その人に対する社会的な評価、世評のことです。
・名誉感情…本人が自己に対して有する評価のことを指します。
法的に保護される「名誉権」における名誉は、社会的名誉を指すというのが確立された考えです。したがって、社会的な評価の対象である企業などの法人にも、名誉権は認められています。

(イ)名誉棄損罪
刑法第230条に規定されている名誉棄損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合、すなわち、人の社会的評価を害するに十分な事実を、不特定多数が認識できる状態におくことで成立します。
一方、民事上は人の社会的評価を低下させる表現があれば、名誉権侵害として不法行為が成立し得ます。
したがって、ネットの掲示板に、「○○会社は、社員に長時間労働を強いるブラック企業だ」や「○○は、不倫をしている」などと書き込むと、それが事実であったとしても、刑事上も民事上も名誉棄損が成立します。

(ウ)表現の自由との関係
表現の自由は、憲法で保障された重要な権利であり、ネットの掲示板等への書き込みも表現の自由の保障が及びます。したがって、ある書き込みが個人等の社会的評価を低下させるものであっても、必ず名誉権侵害となるわけではなく、違法性又は故意が阻却され、名誉棄損が成立しない場合もあります。
すなわち、①公共の利害にかかわる事柄で、②専ら公益を図る目的で、③適示した事実が真実である、場合には違法性が阻却されます。③がないときでも、真実であると信じたことに相当の理由があれば、故意が阻却されます。

(2) プライバシー権とは

(ア)プライバシー権
プライバシー権は、自己情報コントロール権や自己決定権等、非常に多義的な意味を持っています。ここでは、「ネット上に他人には知られたくないことを公開された」という場合、すなわち「個人の私生活上の事柄を、みだりに公開されない自由」としてのプライバシー権が問題となります。
判例上確立している、法的に保護されるプライバシーとは、
①私生活上の事実、又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること。
②一般人の感受性を基準にして、当該の人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること。
③一般の人々にいまだ知られていないことがらであること。
以上の要件を満たす必要があるとされています。
なお、一般にプライバシーは性質上、人にしか認められない権利と理解されていて、法人には認められません。

(イ)表現の自由との関係
プライバシー侵害についても、表現の自由との関係が問題となります。例えば、ネット上の掲示板への書き込みが、個人のプライバシー権を侵害するかについては、「その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する」ことになります。

(ウ)個人情報
「プライバシー」と「個人情報」という言葉は、普段あまり区別されて使われていません。確かに、この2つは重なる部分もありますが、法律的には異なる概念です。
「個人情報」とは、個人情報保護法で定義されており、個人の氏名、生年月日、住所などの記述等により、特定の個人を識別できる情報のことをいいます。個人情報保護法は、企業や団体などの事業者が、個人情報を適切に取り扱う義務等を規定しているものです。個人情報を保護の対象としたもので、プライバシーの保護を直接の目的とはしていません。

(3) 肖像権とは

肖像権とは、みだりに他人からその容貌等を撮影されたり、それを公表されたりしないよう主張できる権利です。人格権としての側面と、財産権としての側面を持っています。
・人格権…撮影や公表を拒絶する権利
・財産権…自己の肖像の利用による、財産的利益を保護する権利(パブリシティ権)
ネット上に自身の容貌等が写った写真等を無断で公開された場合には、肖像権侵害として不法行為が成立し得ます。

(4) 氏名権・アイデンティティ権とは

氏名権とは、他人からその氏名を正確に呼ばれることや、氏名を他人に冒用されないことをいいます。
氏名は、個人のアイデンティティと密接に関係していて、判例上も「その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」として、いわゆる氏名権を法的権利として認めています。
また、自己の氏名から生じる経済的利益・価値を排他的に支配する権利として、パブリシティ権としての側面も持っています。

(5) 著作権とは

著作物の著作者が有する、著作者人格権と著作財産権の総称のことを著作権と言います。

「著作物」とは

著作権法により、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。
著作者の人格価値を保護する著作人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つがあります。著作物から生じる財産的利益を保護する著作財産権は、複製権、上映権、譲渡権、二次的著作物の創作・利用権等がそれぞれ認められています。
インターネット上で、他人の著作物を無断で利用しているケースなどが問題となります。

「私的利用」とは

「個人的に又は家庭内、その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」(著作権法30条)の場合、著作権を侵害したことにはなりません。しかし、インターネットは、世界中からアクセスできる状態であるため、「限られた範囲内」とはいえません。
また、著作物を「引用」しただけでは、著作権侵害とはならないのですが(著作権法32条)、裁判実務上、「引用」といえるか否かは、①引用された部分が明確であること、②引用する側が「主」で、引用される側が「従」であるという関係にあること、が判断において重視されています。

(6) 商標権とは

商標とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状、もしくは色彩又はこれらの結合、音などであって、商品や役務(サービス)について使用するものを指し、特許庁に登録することで、これを独占的に利用する権利を商標権と言います。
一般に、商標が付された商品や役務には、その出所(生産者、販売者など)を表示する機能(出所表示機能)、一定の品質を有するものと期待させる機能(品質保証機能)、その商品や役務を選択することを促す機能(広告宣伝機能)があるとされます。
商標権の登録から10年の存続期間、商標を使用する商品または役務(「指定商品」または「指定役務」という)について、登録商標を使用する権利を専有します。したがって、登録商標と同一の指定商品、または指定役務に登録商標を使用する行為は商標権侵害となります。また、類似する商品や役務に登録商標、または類似する商標を使用することも商標権侵害とみなされます。

3. まとめ

以上のように、インターネット上に記載されている情報が、個人や会社に対する何の権利を侵害する可能性があるのか、その情報が被侵害権利を侵害している程度に達しているのかについて、検討しなければなりません。
まずは、弁護士等の専門家に相談してみて下さい。
弁護士法人松本・永野法律事務所では、ネットによる誹謗中傷事件を数多く取り扱っている弁護士による法律相談を、福岡県・長崎県にて実施しています。ぜひお気軽にお電話ください。