医療機関における労働問題

1 医療機関の特徴
  医療機関は人の生命,身体を守るため,医師,看護師をはじめとして,高度な専門性を持った方々が活躍する職場です。
  また,救急患者や入院患者を受け入れている医療機関では,医師や看護師は,患者の生命を救うため,昼も夜もなく対応に当たることが要求されます。
  こうした医療機関の特殊性から,労働関係でも医療機関ならではの問題が発生します。
2 労働時間管理の難しさ
  医療機関では,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,種々の技師など,様々な専門家がいます。
  こうした専門家をバランスよく採用することは難しく,十分な人員を採用できなければ,長時間労働につながってしまうおそれもあります。
  また,救急患者や入院患者を受け入れている医療機関では,昼勤,夜勤帯の勤務シフトを組む必要があり,緊急の場合には長時間の連続勤務が発生する可能性もあります。
  医療機関では,資格や勤務時間帯によって,労働者の出勤時間,退勤時間がばらばらになるため,労働時間の把握が難しく,長時間労働も多いのが実情です。
  厚生労働省は,適正な労働時間の把握のための基準を定めていますが,労働時間の管理,把握のためには細心の注意を払う必要があります。
3 プロ意識の落とし穴
  医療機関では,使用者,労働者ともに,医療の専門家ということが多いです。医療機関の場合,経営者になるのはほとんどが医師です。
  医療の専門家は,みな,患者を救うことに誇りを持っています。その結果,多少の無理をしても当然,という気持ちを持ってしまうおそれがあります。自分が無理をするだけではなく,職場でそうした雰囲気が醸成されることで,他人にも無理を強いる結果になってしまうおそれもあります。
  また,医師は,人の生死に関わる仕事でもあるため,新たな知識や技術の習得を怠ることは許されない,という,強いプレッシャーがあります。経験を積み,知識,技術を習得したい,という思いから,長時間労働を受け入れてしまうことになるかもしれません。
  そのため,医療機関においては,職員が過重な負担を負わないよう,特に目を光らせておく必要があります。労働環境の専門窓口を設置しておくことが望ましいでしょう。
4 患者さんから職員を守る
  医療機関では,職員が患者さんと直接接触する機会が多くあります。医師,看護師,作業療法士等が患者さんに処置や介助を行う際,暴言を吐かれたり,暴力をふるわれたりすることもあります。患者さんの暴言,暴力の問題が発生した場合でも,やはり医療の専門家としてのプロ意識から我慢してしまい,問題が明るみに出ない,というおそれもあります。
  また,暴言の場合には,証拠がない,我慢すれば何とかなるだろう,ということで職場や上司が積極的に対応に乗り出さない,ということも考えられます。
  しかし,職員が顧客から暴言を吐かれているということになれば,経営者として労働者を守るべく何らかの対策を取ることは当然の義務です。
  近年では,患者さんの権利意識の高まりもあって,医療機関の事務職も患者のクレーム対応が多忙になってきています。
  医療機関を取り巻く環境を考えれば,医療の専門職,事務職それぞれが職場で快適に働けるよう,環境を整える必要がありますし,問題のある患者さんがいることを把握した場合には,職員を守るためにも,早急に対応を取る必要があります。
5 医療機関で働くみなさんは,患者さんの生命,身体を守るため,それぞれ自分の仕事にプライドを持って働いています。
  それ自体は大変すばらしいことですが,プロ意識の高さから,労働者の権利が軽んじられる可能性があることには気を付けなければなりません。
  労働環境に問題がないか,弁護士と常に相談しながら制度を構築することで,いざ問題が発生した場合に,適切かつ迅速に対処することができると思います。