松本永野法律事務所
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1. 普通解雇特有の解雇理由とは

ここでは、普通解雇に特有の解雇理由についてご説明します。
具体的には、①私傷病により、復帰不能となった者に対する解雇、②勤務成績不良者に対する解雇、③整理解雇について
以上について、裁判例の傾向等を踏まえて、説明していきます。

2. 私傷病により、復帰不能となった者に対する解雇について

私傷病とは、業務に関係せずに、プライベートで怪我や病気になった場合のことをいいます。
私傷病により、業務遂行が困難となった者については、企業(特にこれまでの長期雇用を前提とした企業)は、業務内容及び勤務時間の配慮や、傷病欠勤(休暇)・傷病休職などの休業制度により、療養の便宜と機会を与え、病状の回復及び改善を待つことが多かったと思います。これは、使用者の安全・健康配慮義務(労働契約法5条)の要請にも沿った対応といえます。
しかし、療養による回復及び改善の機会を十分に与えても、業務を遂行できるまで回復しない場合には、残念ながら、使用者は就業規則の該当解雇事由(例えば、「心身虚弱のため勤務に耐えない場合」、「心身の故障のため、職務の遂行に耐えない場合」など)に基づいて、解雇を検討しなくてはいけないことになります。
傷病休職期間満了による退職扱いの可否は、傷病が「治癒」したといえるかどうかが問題となります。(この点は、別の項でご説明します)
近年は、企業の健康配慮義務の点から、使用者が対応可能な勤務軽減を行うなど、配慮をすることが求められています。例えば、休職前の業務を支障なく遂行できるほど完全な回復はしていないけれど、使用者が対応可能な勤務軽減(業務内容や勤務時間等)を行いながら、段階的に職務復帰させることで、完全復帰が可能である場合があります。

3. 勤務成績不良者の解雇について

使用者にとって、業務との関係上、勤務成績が不良な従業員は、他の従業員の士気などにも関わる、重要な問題と考えられます。これまでの終身雇用の考え方よりも、勤務成績に連動する成果報酬型の考え方が増えたことに影響され、企業が成績不良として、正社員を解雇した裁判も増えつつあります。
一般的に、裁判所は解雇された従業員の成績不良が、解雇を正当化する内容・程度のものかを慎重に見極めつつ、諸般の事情を考え合わせて判断をしているようです。具体的な例として、(1)長期効用慣行企業と(2)転職市場型企業に分けて検討します。

(1) 長期雇用慣行企業の場合

長期雇用の正規従業員の成績不良を理由とする解雇については、長期雇用・長期勤続の実績に照らして、単に成績が不良というだけではなく、それによって企業経営に支障を生ずるなどして、企業から排斥すべき程度に達していることを求める傾向が強いといえます。
他方で、長期雇用の中核的従業員については、その地位に鑑みて、高度かつ総合的な職務遂行能力を求められるという点に着目して、解雇を緩やかに認めることもあります。
また、専門職の成績不良・適格性不足の事例では、単なる技術・能力・適格性が、期待されたレベルに達していない、という理由で解雇を認めることはありません。著しく劣っていて、職務の遂行に支障が生じて、かつ、それが簡単に矯正できない従業員の性向に起因しているとして、解雇を有効にした裁判例も存在します。

(2) 転職市場型企業の場合

転職市場型企業は、経済の国際化に伴って、日本に進出してきた外資系にもともと多かったと思われますが、近年は、日本の企業にも多くなってきました。
人材の調達を転職市場(外部労働市場)に依存するため、会社で働き始めたにもかかわらず、従業員の成績が会社の予想より不良であったために、解雇するという事案が増えているようです。
判例の傾向として、現時点では、転職市場型企業であっても、長期雇用慣行企業と同様の判断により、解雇の正当性を判断していると思われます。

4. 整理解雇について

整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇と考えられています。整理解雇は、他の解雇事由と異なり、使用者の経営上の理由により解雇することに特徴があります。これまで長期雇用慣行があったため、整理解雇はより厳しく判断される傾向にあります。

(1) 整理解雇の判断基準とは

これまでの長期雇用慣行の下では、できる限り整理解雇を回避するために、組合との協議のもと、残業規制等により雇用調整を行ってきました。しかし、雇用調整でも対処できないほどの人員削減が必要な場合には、退職金を上積みして、希望退職の募集を実施していました。それでも企業の業績が回復しない場合、整理解雇は最終手段とされてきました。
そこで、裁判例では、整理解雇が解雇権の濫用とならないかの判断基準として、以下の点に着目して判断していると思われます。

①人員削減の必要性
企業経営上の十分な必要性に基づいているか、企業の合理的な運営上、やむを得ない措置と認められるかに着目します。

②人員削減の手段として、整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性
整理解雇をする前に、他の手段によって解雇回避の努力をする、信義則上の義務を負うとされています。他の手段を試みずに、いきなり整理解雇の手段に出た場合は、ほとんど例外なくその解雇は解雇権濫用とされています。
もっとも、他の手段とはどのようなもので、どのような手順で試みるかは、具体的な事情で判断しますが、真摯かつ合理的な努力が認められるか等も考慮されていると考えられます。

③被解雇者選定の妥当性
客観的で合理的な基準を設定し、これを更正に適用して行うことを要します。

④手続きの妥当性
裁判例の傾向として、使用者は労働組合または労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法について納得をしてもらうために説明を行い、対象者と誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負うとされています。

(2) 裁判例の判断傾向とは

裁判所は、これまでは上記の①~④のすべてを満たしたときに、整理解雇が有効とし、これらは必要な条件と考えているようでした。しかし、経済の長期かつ深刻な停滞の中で、企業による削減の必要性等から、上記の①~④を必要な条件としてではなく、判断要素と考えています。そして、その他諸般の事情を考慮しながら、総合的に判断する裁判例が多くなってきています。

5. まとめ

以上、解雇の中での普通解雇について具体的にご説明いたしました。
上記でご説明した内容は、裁判例等から説明が可能なように、抽象的かつ網羅的に取り上げたものです。実際に、解雇が法的に可能か否か等は、具体的かつ個別的な事情から、総合的に判断する必要性があります。
そこで、解雇を考えている事例があれば、当該事例に関係する書類等をご持参の上、ぜひご相談ください。