松本永野法律事務所
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1. 懲戒事由とは

懲戒処分の対象とする懲戒事由は、就業規則で列挙され、抽象的に表現されていることが多いはずです。おそらく、こちらをご覧になっている方の会社でもそうだと思われます。
しかし、裁判例によると、具体的な事案において、就業規則上に記載されている懲戒事由に該当するか否かを判断する場合、労働者保護の観点から、文言を限定的に解釈して適用する傾向にあります。
以下では、主な懲戒事由として、(1)経歴詐称、(2)職務懈怠、(3)業務命令違背、(4)業務妨害、(5)職場規律違反、(6)従業員たる地位・身分による規律の違反、があり、それぞれについて裁判例による解釈の仕方を検討していきます。

2. 懲戒の事由について

(1)経歴詐称とは

懲戒事由として、代表的なものが経歴詐称です。一時期は、テレビタレントでも大きな問題となっていた記憶がある方もいらっしゃると思います。
経歴詐称といっても、軽微なものは含まず、重大な経歴の詐称に限定されています。重大な経歴の詐称にあたるとされている例として、最終学歴(低い学歴を高く詐称するだけでなく、反対に高い学歴を低く詐称することも含まれます)や職歴、犯罪歴の詐称があります。もっとも、詐称の内容や当該労働者の会社における職種などから、具体的に判断されます。
会社にとっては、重要な経歴を詐称する人との間に、信頼関係を構築することは難しく、企業の秩序や運営に支障が生じるおそれがあることなどが、懲戒事由とする根拠です。

(2)職務懈怠とは

職務懈怠には、無断欠勤、出勤不良、勤務成績不良、遅刻過多、職場離脱などがあたります。
もっとも、上記の事由があればすぐに懲戒事由にあたるわけではなく、上記の事由が就業に関する規律に反したり、職場秩序を乱したりする等の影響があったと認められて、初めて懲戒事由となります。その際、もちろん懲戒の手段とのバランスなども必要となってきます。

(3)業務命令違背とは 

業務命令違背としての典型例は、就業についての上司による指示・命令に違反することです。具体的には、時間外労働命令、休日労働命令、出張命令、配転命令、出向命令などに対する違反です。 上記の命令に対して労働者が違反した場合、まず上司の当該命令が、労働契約の範囲内の有効なものなのか否か、次に、労働者にはその命令に服しないことについてやむを得ない事由があるか否かが、主な問題となります。
もちろん、時間外命令及び休日労働命令の場合には、労働基準法上の規制に反していないかも問題となります。
判例で争われたものとして、所持品検査を行うためには、①検査を必要とする合理的理由の存在、②検査の方法が一般的に妥当な方法と程度で行われること、③制度として職場従業員に対し画一的に実施されるものであること、④明示の根拠に基づくことを求められています。

(4)業務妨害とは

業務妨害とは、労働者による会社の業務の妨害で、その典型例が、組合による争議行為です。会社の業務を積極的に阻害する方法で行われ、その争議行為に正当性が認められない場合に、当該争議行為を指導した、労働者及び率先的に実行した労働者などに、その役割に応じて相応の懲戒処分を行うことです。

(5)職場規律違反とは

労務の遂行や職場内でのその他の行動を規律している規定に、違反することがあてはまります。よく問題となるものとして、会社の備品の窃盗及び損壊、横領、背任、他の従業員に対する暴力行為などの非違行為です。また、顧客情報の漏えいなど、会社の情報管理規律に違反することや、上司が部下の不正行為を意図的に見過ごしたり、過失により見逃したことも、職場規律違反となり得ます。

近年は、あまり問題となることは少ないですが、会社構内での演説、集会、ビラ配布などの政治活動を、一般的に禁止又は許可制にする就業規則に違反した場合があります。その裁判例は、

①職場内での従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立、ないし抗争を生じさせるおそれがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いので、就業規則上一般的にこれを禁止することも許されます。

②事業場内において演説、集会、貼り紙、掲示、ビラ配布などを行うことは、休憩時間中であっても、事業場内での施設の管理や、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げるおそれがあり、またその内容によっては企業秩序を乱すおそれがあるので、これを許可制に置くことは合理性があります。

③したがって、これらの禁止の違反は、実質的に事業場内の秩序風紀を乱すおそれのない、特別の事情が認められないかぎり、懲戒処分の対象となるとしています。

(6)従業員たる地位・身分による規律の違反とは

(ア)私生活上の非行
会社の名誉、体面、信用を毀損した場合や、犯罪行為などの私生活上の非行について、懲戒事由としていることが多いと思います。
しかし労働契約は、労働者の私生活に対する使用者の一般的支配まで認めるものではありません。裁判例は、労働者の私生活上の行為のうち、事業活動に直接関連を有するもの、及び企業の社会的評価の毀損をもたらすもののみ、懲戒事由となるとしているようです。

(イ)無許可兼職
会社の許可を得ずに、他人に雇入れられることを禁止しています。その違反に対する懲戒の有無について、裁判例は、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に、格別の支障を生ぜしめない程度・態様の無許可兼職は、違反にあたらないとしています。

(ウ)誠実義務違反
従業員は労働契約上、会社に対し誠実義務を負っています。そのため、労働者が労働義務以外の領域においても、労働契約上の誠実義務違反について、懲戒事由となり得ます。例えば、会社の製品の不買運動を実行する、就業時間外に会社外で事実を歪曲し、かつ中傷誹謗する内容のビラを配布する、などの行為が誠実義務違反となりえます。
他方、裁判例では、労働者が労働条件の改善を目的に、会社批判の図書を出版したとしても、当該図書の内容が真実である場合、又は真実と信ずるにつき相当の理由がある場合であること。また、使用者に対する正当な批判行為と評価される場合には、当該図書出版を理由に懲戒処分をすることは、懲戒権の濫用にあたるとしている事例もあります。

3. まとめ

以上、具体的な懲戒事由について、主なものとして6つに分類し、裁判例による解釈の仕方を検討しました。上記の内容は、あくまでも一例であり、具体的な就業規則の文言や、当該従業員の地位・立場、会社の業種など、事案における個別具体的な事情から、裁判所は懲戒事由の有無を解釈しています。
そこで、みなさんの会社においても、就業規則の文言上、懲戒事由にあたるか否かを判断するためには、前述したような個別具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。
もし、懲戒事由にあたるか否かの判断に迷われるようなことがあれば、ぜひ資料をお持ちになり、ご気軽にご相談ください。