松本永野法律事務所
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使用者責任等について

Q.従業員の自動車(以下、「マイカー」という。)を会社が積極的に提供させ、事故を起こした場合、会社は責任を負うか。
A.マイカーが純粋に通勤だけに利用されており、業務に一切使用されていない場合には、「事業の執行について」生じたものとは言えず、使用者責任は生じない(最一小判昭和52年9月22日・民集31巻5号767頁)が、業務にも利用していた場合には、会社は、業務中はもとより、通勤中の事故であっても、運行供用者責任および使用者責任を負う。

要旨(最一小判昭和52年12月22日・裁判集民122号565頁)
会社の従業員が通勤のために利用する所有自動車を運転して工事現場から自宅に帰る途中で事故を起した場合に、同車が、会社の概括的承認または特別の指示のもとに、会社または従業員の自宅と工事現場との間の往復等会社業務のためにもしばしば利用され、その利用に対して会社から手当が支給されていた等の事情のもとでは、右事故につき会社は運行供用者としての責任を負う。


もっとも、近時の裁判例(福岡地裁飯塚支判平成10年8月5日・判タ1015号207頁)は、会社がマイカー通勤について通勤手当を支給していた事案につき、「通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当である。したがって、マイカー通勤者が通勤途上に交通事故を惹起し、他人に損害を生ぜしめた場合(不法行為)においても、右は『事業の執行につき』なされたものであるとして、使用者は原則として使用者責任を負うものというべきである」として、比較的緩やかに業務執行性を認定し、使用者責任を肯定しているものもあるため、注意が必要である。
(Q&A人事・労務リスクマネジメント実務全書 834、835頁)

雇用契約について

Q.従業員が事故を起こした場合、使用者責任を負わない方法はあるか。
A.前記のとおり、マイカーを業務にも利用していた場合には、会社は、業務中はもとより、通勤中の事故であっても、使用者責任を負う。そして、雇用主は、被用者の選任および事業の監督につき相当の注意を払ったことを立証するか、または、相当の注意をしても損害が発生していたであろうことを立証することで使用者責任を免れることができる(民法715条1項ただし書)と定められているが、現在では、使用者の免責を認めるものはなく、事実上、無過失責任となっている。よって、仮に、雇用契約書や誓約書等で免責条項を入れられたとしても、同条項は無意味であると思料する。
雇用契約に関して、調査したが、免責条項に関する記載はなかったが、消費者契約法第8条1項1号では「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」は無効とされている。
以上より、雇用主としては、労働契約の不履行について損害賠償額を予定する契約を定めておきたいものであるが、これは労働基準法第16条で禁止されている(但し、ここで禁止されているのは予約等であり、実際に発生した損害を労働者に求めること自体は禁止されていない)。

保険契約について

Q.自家用の保険契約後、有償運送中に事故が生じた場合、保険金の請求はできるか。
A.営業用に使用したとされ、請求できない場合もある。
自動車の用途を自家用として契約したにもかかわらず、実際には有償運送のように供していた事案で、保険者免責が認められた裁判例として以下のものがある。

要旨(東京地判昭和48年11月6日・判例時報735号79頁)
自動車対人賠償責任保険において目的自動車を自家用と約したにかかわらず、事故当時、業として他人の求めに応じて、当該自動車を用いて有償で綿糸を運送した場合には、免許の有無にかかわらず、当該自動車を営業用に使用したものと認めるべく、保険証券記載以外の用途に使用中に生じたものとして、保険会社は損害填補の責に任じない。
(弁護士のための保険相談対応Q&A 200頁)


前記内容を検討すると、マイカーを業務にも利用するということであれば、使用者責任を回避することを考えるのではなく(回避不可能と考えておいた方がよい)、まず何よりマイカーが十分な損害保険に加入しているかどうかを会社側でチェックし、加入していない場合は加入を指導することが肝要であり、また、補償が不足していないか、契約期間が切れていないかなども、必ず確認するよう徹底すべきであろう。
もっとも、前記のとおり、保険契約において、免責の対象になる可能性もあるので、それについては、本人の責任の下、対応してもらうしかない。