Traffic Accident Case

事例1【既払金のほか3000万円を支払うとの内容で和解が成立し、大幅増額を実現】CRPS・手指の障害の事例

  1. 慰謝料・損害賠償

依頼主<30代・男性>

事件の概要

福岡県筑前町在住の30代会社員のAさん(男性)が、自動車底部を覗き込むに際し、体を支えるため無意識に左手を運転席乗降口下のボディに添えていたところ、加害者がこれを確認しないまま運転席ドアを閉めたことにより、開いていた同ドア下部分に面する同車両部分に添えていたAさんの左手拇指を挟んで切断させ、左拇指切断の傷害を負い、再接合術を受けて入通院を余儀なくされましたが、手関節・拇指の疼痛、拇指先端の異常知覚強く、異常感覚の範囲が拇指尖端からCA関節部まで拡大、痺れもかなり強いことからリハビリも出来ない状態となったため、麻酔科を受診することになり、複合性局所疼痛症候群(CRPStypeⅠ)との診断を受けました。

当事務所の活動

当事務所は、Aさんの主治医と面談した上で、後遺障害診断書等の医証を獲得し、後遺障害等級の申請を自賠責に行いましたが、自賠責は、左拇指末節部切断に伴う左拇指の機能障害として後遺障害等級第10級7号は認めたものの、CRPStypeⅠを否定しました。

CRPSとは、骨折、捻挫、打撲などの外傷をきっかけとして、慢性的な痛みと浮腫、皮膚温の異常、発汗異常などの症状を伴う難治性の慢性疼痛症候群です。複雑な病態であり、1994年に国際疼痛学会(IASP)は、神経損傷を伴うCRPStypeⅡ(カウザルギー)と神経損傷を伴わないCRPStypeⅠ(反射性交感神経症ジストロフィー〔RSD〕、肩手症候群、Sudeck骨萎縮)の2型に分類されました。しかし、後遺障害認定基準が医学的な診断基準あるいは判定指標と異なるため、医学的診断基準に基づきCRPSないしはRSDと診断され、後遺障害診断書が作成されたにもかかわらず、RSDとしての後遺障害が認定されないという事態が生じ得ます(詳しくは、「CRPS」を参照してください。)。

そのため、当事務所は適正な後遺障害等級の認定を受け、適正な賠償を受けるため、福岡地方裁判所久留米支部に訴訟提起しました。

解決と成果

本件訴訟における主な争点は、①症状固定時期、②休業損害、③後遺障害等級、④過失相殺でした。  症状固定時期について、加害者側は、Aさんの主治医以外の医師の意見を証拠として、「CRPSは、本件事故と相当因果関係の認められないものであるから、これに対してなされた治療によって生じた治療費は、本件事故と相当因果関係を認めることはできない」とし、受傷の約1年4か月後を症状固定日とするよう主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は、当事務所の主張(受傷の2年5か月後)を採用しております。

休業損害について、加害者側は、「休業期間は、復職予定とされている」日の前日(受傷の約2か月後)までであると主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は、休業期間の範囲を症状固定後まで拡大し、その入通院日数を考慮して、休業損害を認定しました。

後遺障害等級について、加害者側は、自賠責の認定結果と専門医の意見書を証拠として、「CRPSに罹患したとは認められない」と主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は「左拇指を中心とする症状は、CRPSの発症を裏づける症状と一致しているから、CRPSに該当すると認めるのが相当である。そして、その後遺障害の等級については、原告の一連の症状の部位及び程度、診療経過、原告の労働状況等を総合的に考慮すると、12級に該当すると認めるのを相当とする。」として、機能障害と併合し、後遺障害第9級と認定しました。

過失相殺について、加害者側は、「被告(加害者)が運転席に座ってから、速やかに左手を離していれば、本件事故発生は容易に回避できたのであるから、本件事故発生において、原告(Aさん)に過失が認められ、その過失相殺率は、50パーセントを下らない。」と主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は、当事務所の主張(過失なし)を採用しております。

以上より、加害者側は、Aさんの損害は既に填補されている趣旨の主張を展開しておりましたが、後遺障害等級第9級を前提に、過失相殺がなされることもなく、加害者側が、Aさんに対し、既払金のほか3000万円を支払うとの内容で和解が成立し、結果として、大幅増額を実現することができました。

弁護士の所感

CRPSについては、自賠責における後遺障害認定基準が医学的な診断基準あるいは判定指標と異なるため、しばしば問題となります。そのため、医学上の診断基準を満たしていても、必ずしも、特殊な性状の疼痛としての後遺障害評価がなされるわけではなく、裁判実務でも、医師の診断をそのまま採用しないという傾向があります。

しかしながら、訴訟上の判断が自賠責の認定基準に拘束されるものではありませんから、医学上CRPSと診断されはしたものの、自賠責の認定基準を満たさない場合であっても後遺障害等級認定がなされ得ることは当然です。そのため、CRPSの各診断基準を参考にしつつ、客観的な医学的証拠に基づいて認定することができる所見を中心に、CRPSを特徴づける所見の有無及び症状の経過等を総合的に評価してCRPSの発症の有無を具体的に主張することができれば、本件のように、訴訟によって自賠責の判断が覆り、CRPSとしての認定を受けることができます。

このように、自賠責で等級を否定されたとしても、訴訟により認定結果が変わる可能性がありますので、あきらめずに、弁護士に相談して頂きたいと思います。

文責

弁護士 永野 賢二