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自然災害と不可抗力免責(土木・建設業)

2019年8月26日
【顧問弁護士】自然災害(土木・建設業)

ここ数年、地震や大雨など、日本では想定外の被害を及ぼす天災が多発しています。
建設工事現場では、建設物、仮設物が天災の影響を直接的に受けますので、天災の多発を心配に感じている建設業者の方は多いのではないでしょうか。

地震によって工事費用が増加した場合

たとえば、ビルの建設工事中に大地震が発生し、完成途上のビルが崩壊してしまったとします。 このような場合、ビルの完成までの工事期間が延長したり、資材を再調達しなければならなくなったりして、建設業者が工事に伴って支出する費用は、当初の予想より、大幅に増加することになります。

法律上は、工事期間が伸びたり、資材を再調達したりすることになった原因が発注者にあれば、発注者に増加費用を請求することができますし、それらの原因が請負人である建設業者にある場合には、建設業者がそれらの増加費用を負担することは当然であり、発注者に増加費用を請求することもできない、ということになります。 そして、地震については、注文主のせいでも建設業者のせいでもなく、「不可抗力」とされるため、不可抗力によって損害が生じた場合には、損害を被った側の自己負担とされてしまうことが通常です。 つまり、法律上は、地震などの「不可抗力」を理由とする場合、資材を再調達するために発生した費用や工事期間が延びた分の増加費用を発注者に請求することは難しいのです。

実際には、工事を続行するかどうかも含めて、発注者と建設業者の間で協議が行われることになるでしょうが、双方にとって非常に大変な交渉になることでしょう。 もっとも、契約書に「不可抗力」によって生じた損害の補填について定めておけば、発注者、請負人それぞれの立場から不測の事態に備えることができます。 大型建設工事の場合は、不可抗力によって生じた損害について、請負人が発注者に通知し、双方協議の上、損害の一部を発注者が負担する、という条項が付けられていることが多いですが、もちろん、双方の協議により、これと異なる契約内容にすることもできます。

地震によりリース物件レンタル物件が被災した場合

地震のせいで工事現場の重機が倒壊物の下敷きになったりして故障した場合、重機がリース物件であったり、レンタル業者から借り受けているものであった場合にはリース業者やレンタル業者から重機の修理代や買替費用の請求を受けるかもしれません。 法律上は、請負人である建設業者のせいで重機が故障したのであれば、建設業者が修理費等を支払わなければなりませんし、リース業者やレンタル業者側の整備不良などが理由で故障したのであれば、建設業者が修理費等を負担する必要はありません。
そして、「不可抗力」により重機が故障した場合には、建設業者のせいで重機が故障したわけではないので、重機の修理費や買替費用は重機の所有者たるリース業者やレンタル業者が負担すべきものと考えらます。
(ちなみに、重機に車両保険が付されている場合であっても、通常の車両保険では地震による損害は保険の適用対象外とされています。)

ところが、リース契約書やレンタル契約書では、「不可抗力」によって重機が故障したような場合であっても、重機の修理代や買替費用をユーザーあるいは借主が負担するという条項が付されていることが多いのです。 重機のリースやレンタルに当たっては、使用期間や料金にばかり注目しがちで、契約書の細かな条項(実際には、見積書や請求書に細かな文字で条項が付されていることが多いです。)まで気を配ることはないと思います。 地震などの災害が発生して初めて契約書にこのような条項があることに気付き、驚かれる建設業者の方も多いかもしれません。

まとめ

大きな天災が生じた場合には、発注者も請負人もそれぞれ従業員の安全確認や、インフラの復旧作業等様々な災害対応に追われ、各所で損害が発生するため、増加費用の負担について冷静な対処ができないということが考えられます。 そのため、工事の契約の際には、「不可抗力」により損害が生じた場合にどのような取り決めになっているのか、確認することが重要です。 また、災害が起きた後で、損害の発生が「不可抗力」によるものなのかどうか、ということ自体が争われることもあります。 実際には、災害による損害の発生の場合であっても、災害の規模等の自然要因と工事計画や機材の強度、災害への備え等の人的要因が複雑に絡み合って損害が拡大していると考えられます。

自然要因と人的要因のどちらに原因があるのか明確に判断できないときには、不可抗力と人的要因の寄与度を考慮しながら、損害額を限定するということも考えられます。 工事途中に災害が発生した場合には、工事再開後のことも考えなければならず、法律や契約条項の定めだけで割り切った対応をするのは現実的には難しいかもしれません。 しかし、法律的観点、契約上の取り決めを把握していれば不当な要求に毅然と対応することが可能です。 災害への備えについても、災害が発生した後についても、弁護士に相談しながら対処することが有益と考えられます。